はじめに:ビューティ・コスメ業界における市場規模と展望
美容・化粧品市場は近年、オーガニック、クリーンビューティー、Kビューティーなどの新たなトレンドが勢いを増し、市場規模は拡大傾向にあります。
実際、世界の化粧品用化学品の市場は、2021年の420億3,000万米ドルから2030年には1,075億3,000万米ドルまで、年平均成長率11%で成長すると予測されています。
この背景には、研究開発への継続的な投資、個人の可処分所得と購買力の上昇、天然成分を含む化粧品への需要の増加が挙げられます。(*1)
また、インテージのPOSデータ(販売データ)によると、全国のドラッグストア、スーパー、ディスカウントストアなどの小売店におけるスキンケア商品(化粧水/乳液/美容液/洗顔/クレンジング)の年間市場規模は3600億円を超えています。
中でも最近のトレンドとしては、男性化粧品の市場規模が伸びており、2022年までの5年間で約1.5倍の376億円となり、2023年も引き続き好調に推移しています。(*2)
一般に小売業界ではEコマース化が進んでおり、オンラインとオフラインを組み合わせた新しい販売形態も注目されています。
しかし、美容関連商品や化粧品、香水などに関しては、手や顔に塗って色やテクスチャーを確かめたり、テスターやサンプルで自分の肌や好みに合うか試してから購入するといった「店舗で実際に試せること」を重視する人が多く、実店舗で購入する機会が多い商品分類となっています。
参照
※2 ポストコロナでも成長を続ける男性化粧品市場|intage
ビューティ・コスメを取り扱う店舗・施設の成功事例
実店舗を持つ小売業にとって、現在の市場規模を把握し、将来の展望を予測しながら、市場の変動やトレンド、顧客ニーズの変化に対応する戦略を立てることは非常に重要です。
ビューティ・コスメを取り扱う企業の間でも、新たな顧客を獲得するため、様々な施策が行われています。
Loft(ロフト)
次世代型の大型旗艦店として2017年にオープンした銀座ロフトは、19年に大きく拡張し、現在の6フロア構成となりました。2Fは従来、美容・健康を扱うフロアでしたが、MD構成を大幅に変更し、韓国コスメ、メンズビューティー、美容家電コーナーを拡充しました。(*3)
ダイナミックなトレンドの変化、多様化する消費者ニーズに対応し、より幅広い客層に訴求できる品揃えに拡充することで、新規顧客の獲得に成功しました。
@cosme(アットコスメ)
ビューティ・コスメ業界最大級の口コミサイト「@cosme(アットコスメ)」の旗艦店が「ルミネエスト新宿店」としてオープン。
試して、出会って、好きになる運命のコスメを体感していただくために、訪れたくなる、幅広い年齢層の方に楽しんでいただける売場づくりを目指しています。
例えば、顧客の商品の選び方に対応した販促物や、オリジナルの手書きPOPで、来店客に伝えたいことを視覚的に訴求。売り場を企画する際にも「お客様から問い合わせの多い商品」「ニーズが高まっているカテゴリー」などをスタッフ同士で話し合い、売りたい商品をどう展開するかまで考えています。
常にお客様の目線を大切にしていることが、売上を維持し続けている理由になっています。(*4)
参照
※3 新ビューティスポット2店が見せる、リアルでの「売り方」【今週のビューティ展望】|WWD JAPAN
※4 【@cosme storeに聞く】売り上げ好調を探る!|STORiES istyle blog
ビューティ・コスメ販売店における店舗分析の重要性
店舗分析とは、売上データ、来店人数やパターン、商品配置、客単価、購入率などの様々な指標を調査し、店舗運営の改善策や課題点を見出すプロセスを指します。
ECショップやライバル店など、激しい競争の中で生き残るためには、美容関連商品や化粧品を販売する小売業者にとっても店舗分析は欠かせません。
精度の高い分析ができれば、短期的な売上や新規顧客の獲得だけでなく、顧客満足度の向上やリピーターの獲得など、長期的な業績改善にもつながります。
AIカメラによるデータ取得やその利活用への大きな期待
店舗分析の基盤となるデータの取得や利活用の仕方は、しばしば過小評価されがちです。
マーケティング担当者や経営者、店舗リーダーが時間をかけて店舗分析を行っても、散乱した大量の情報から売上伸び悩みの根本的な原因や運営上の課題を抽出することは難しく、またそもそも収集したデータの精度や整合性に問題があれば、経営戦略の立案においても確実性を欠くことになってしまいます。
そこで最近注目されているのが、AIカメラを用いた店舗計測です。
これまで人がアナログで行っていた人数カウントや顧客データの収集をAIカメラに代行させることで、より正確な店舗分析ができるようになり、効率的かつ効果的な店舗運営が実現できます。
ここからは、ビューティ・コスメを扱う小売店におけるAIカメラの取得データ例や、データの活用事例についてご紹介します。
AIカメラで取得する、店舗運営に効果的な指標とは?
①入店人数・店前通行量・入店率の計測
日々の店舗の売上を左右する重要な要素の一つが来店客数です。
AIカメラでリアルタイムに顧客の数を計測することで、日々の客数の変化や傾向をつかみ、どの時間帯や曜日が集客に最も効果的かを分析することができます。
入店人数カウントは、勤務体系(シフト)の調整、スタッフ配置の最適化にもつながります。客数に応じてレジ担当や接客スタッフ数を調整し、機会の創出によるコンバージョン率(購買率)や平均客単価の向上を目指します。
一方、店頭通行量は、店の前を通過する人の数のことです。複数の店舗を構えるのであれば、各立地や通りにどれだけポテンシャルがあるかを比較することができます。
また、入店率は実際どれだけの潜在顧客を店内に呼び込むことができたのかを表し、入店人数を店前通行量で割って算出します。
例えば、平常時とセール期間の入店率のデータを比較することで、販促活動が十分貢献できているかを判断することができます。
また、ブランドやショップの顔であるエントランスのディスプレイや看板がどれだけ訴求力を持ち、人の興味を引いているかを測定することもできます。
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②顧客やスタッフの行動分析
AIカメラを用いることで、顧客の行動パターン、店内での滞在時間、商品への関心度など様々なデータを取得することが可能です。
具体的には、顧客が店内のどのエリアで商品を手に取ったか、どの商品を長く見ていたか、どこで店員の接客を受けたか、どの経路を辿ってレジで支払いをしたかなどの情報を取得します。
また、接客がきっかけで購入に至った顧客の割合や、スタッフの接客が行われた場所などを細かく見ていくことも可能です。
これらの情報は、店内レイアウトや品揃えの見直し、販促物の改善、スタッフのパフォーマンスの向上などに活用できます。
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③顧客の属性や来店頻度の把握
年代や性別などのデモグラフィック情報を取得することで、ショップがターゲットとする顧客の特徴を把握し、それに応じた商品展開やプロモーションを企画することができます。
また、店舗入口及びレジ前の属性を取得することで、男女間や年齢層により購買行動に差があるかどうかを調べることもできます。
顧客属性はセグメントに沿った商品展開や顧客一人ひとりに合わせた接客サービスの提供などにもつながり、売上向上が期待できます。
あわせてリピーターと新規顧客の割合を把握することで、それぞれの顧客行動を分析し、リピート購入を促す施策を検討することも可能になります。
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④顧客の店内滞在時間や混雑度の調査
店内滞在時間とは、顧客が店内で過ごす平均時間を意味し、小売業における顧客満足度の向上を測る指標の一つに位置づけられています。
一般的に、店内での滞在時間が長いほど顧客満足度が高いとされ、滞在時間を長くすることでより多くの購買機会の創出を試みることができます。
また、店内の混雑状況を踏まえ、最適な店内動線に改善したり店員の増員・減員をすることで顧客体験を向上させたりスムーズな購買行動を促すことができます。
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ビューティ・コスメ販売店におけるAIカメラ導入事例
ここでは、AIカメラの導入で店舗運営が改善されたビューティ・コスメ販売店の事例を、短期検証・中期検証に分けてご紹介します。
【短期施策】入店人数予測からスタッフ配置を最適化し、購買機会を増加させる
AIカメラの導入目的
基礎化粧品を販売する某ドラッグストアでは、来店客数の変化を事前に予測し、在庫や人員を適切に管理することで、購買機会の損失を減らすため、AIカメラを設置しました。
導入後の取り込み
AIカメラで取得した過去の来店客数の集計データをもとに、来店客数の推移や予測値をダッシュボードで可視化。1週間の入店者数のグラフやピーク時間帯のヒートマップと、スタッフの勤務スケジュールを照らし合わせ、接客漏れやレジ待ちの原因となるスタッフ不足や不在の曜日・時間帯を把握しました。
また、来店客数とPOSレジのデータから、購入数や購買率が高い商品を特定しました。複数のデータを照合し、品切れを防ぐために早めに在庫を補充するなどのアクションを取りました。
導入後の結果
AIカメラを導入したことで、予測データをもとに繁忙期のスタッフ配置や商品補充タイミングを最適化することが可能になり、機会損失を防ぐことができるようになりました。
(取得した指標:入店人数、購買率、スタッフスケジュールの連携)
【中期施策】顧客エンゲージメントを高めるイベントの開催で、売上アップを目指す
AIカメラの導入目的
カウンセリング化粧品を主に販売する某小売店では、集客施策の積極的な実施や、顧客一人ひとりにパーソナライズされたサービスを提供することで、店内での顧客体験を向上させ購買率を高めることを目的に、AIカメラで人流データや顧客とスタッフの行動データを収集しました。
導入後の取り組み
店内の特定のスペースで、顧客の肌の状態や顔の形状を分析し、最適な化粧品を提案する新しい接客サービスを展開しました。
新サービスの開始に伴い、販促物を入口に設置し、入店人数や店舗前の通行量を収集することで、集客効果を測定しました。またAIカメラで取得するデータとPOSレジのデータを連携させ、施策前後の購買率や平均客単価を算出しました。
さらに、店内の個別エリアの購買率や接客回数、接客場所を数値化するため、来店客とスタッフの動線を取得しました。
導入後の結果
施策前後で入店客数や入店率に大きな変化はなかったものの、顧客体験を向上させる接客を積極的に展開したことで、顧客の購買率が10%上昇し、来店客ベースの平均客単価も5%上昇しました。
また、カスタマージャーニーにおける店内各エリアの移動経路と順序を調べたところ、該当のイベントスペースへと移動し接客を受け、その後レジに向かう客数が一定数確保され、売上に貢献していることが明らかになりました。
今後、新たなイベント施策をいくつか実施したいと考えており、該当エリアでの滞留状況(エリアの通過人数)、立ち寄り回数・平均滞在時間など)を割り出すとともに、各イベントの訴求効果も調査したいと考えています。
(取得した指標:入店人数、店前通行量、購買率、平均客単価、顧客動線、スタッフ動線、カスタマージャーニー)
まとめ
店舗分析は、ショップ運営の改善とビジネスの成長に重要な役割を果たす不可欠なプロセスです。
しかし、その効果を最大化するためには、定期的なデータ分析と売り場での検証が欠かせません。
AIカメラで取得したデータを分析し、戦略的な販売活動につなげることで、競争の激しいコスメ・ビューティ業界において優位性を保ちつつ、顧客に最適なサービスを提供することが可能になります。
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