序章:AIカメラとは何か
AIカメラの機能と役割とは?
AIカメラは、人工知能(AI)技術を組み込んだカメラのことを指します。
単に映像を撮影するだけでなく、その映像から情報を抽出し、分析する能力を持っています。機械学習というAIの特性を利用して、カメラが撮影した映像の中に含まれる人や物のパターンを学習し、分析に活用します。
小売業界におけるAIカメラの役割と可能性
小売業界において、AIカメラは店舗分析のための強力なツールとなりつつあります。
例えば、何人の顧客が来店し、どの商品に興味を示し、どの通路を通って退店するかなどの情報を収集し、顧客の行動パターンを理解することで、商品配置や店舗レイアウトの改善、スタッフ配置の最適化などの店舗運営改善に役立てることができます。
また、AIカメラで取得したデータは、多くの顧客の来店を促すための広告戦略や新たな販売戦略を立案するための材料にすることができます。
このように、AIカメラは小売業界において、データ駆動型の意思決定を支える重要な役割を果たしています。
本稿では、コロナ渦以降に需要が増加し、売上が向上した家具・インテリア雑貨店におけるAIカメラを用いた店舗分析方法について述べていきます。
家具・インテリア雑貨店での市場規模と動向
世界における家具の市場規模は、2023年の6,524億米ドルから2028年には8,554億9,000万米ドルに成長し、2023〜2028年の年平均成長率は5.57%になると予測されています。
また、日用品・家具・インテリア販売を含む物販市場全体の動向として、コロナを境にEC化、O2O化(※1)やOMO化(※2)が進みました。しかし、市場が変化した現在でもなお、特に大型家具や高価な照明器具などは、実際に店舗に足を運び、自分の目でサイズや色み、質感などを確かめてから購入することに価値を見出す顧客が多数を占めています。
O2O・OMOの代表例としては、国内大手インテリア小売業「ニトリ」が2020年に行ったAR(拡張現実)機能を活用したアプリによる施策があります。顧客はAR機能を使って自宅にいながらあらかじめ家具のサイズを計測し、部屋に置いたイメージを確認してから店頭で商品を購入できるようになりました。
このように、家具・インテリア雑貨店では市場の変化に柔軟に対応しつつ、実店舗での来店や購入を促す施策が成功を遂げています。
*1 「O2O」とは?
O2O(Online to Offline)は、オンライン(WEBサイト、アプリ、インターネット広告、SNSなど)で広く情報を発信し、オフライン(実店舗)に顧客を誘導し、購買につなげるマーケティング戦略です。詳しくはこちら
*2 「OMO」とは?
OMO(Online Marges with Offline)とは、直訳すると「オンラインとオフラインの融合」を意味するマーケティング手法の一種です。実店舗、アプリ、カタログ、Webサイト、ECサイトなど、オンラインとオフラインの垣根を超え、顧客とのあらゆる接点(チャネル)で最適な購買体験やサービスを提供することで、売上拡大を目指します。詳しくはこちら
いずれのマーケティング戦略も、アパレルなどの小売業を中心に広がりを見せています。
参照:
家具・インテリア雑貨店でのAIカメラの役割とは?
AIカメラは実店舗の分析に利用されるツールの一つです。ここからは、家具販売店やインテリア雑貨店におけるAIカメラを活用した顧客データ計測のメリットをご紹介します。
まず、AIカメラは店舗の売上の基盤となる客数をリアルタイムで把握するために使用されます。日々の入店人数の推移や入店率をもとに、プロモーション広告や入口のディスプレイ陳列を最適化するヒントを得ることができれば、来店促進による売り上げ向上が見込めます。
入店人数の計測は店員の働き方改革にも役立ち、混雑時間帯の効率的なスタッフ配置や、無駄な業務や優先順位が低い作業を減らすことで、パフォーマンス向上にも寄与します。
また、AIカメラは顧客の動線を取得できるため、動線分析が店舗レイアウトの改善をサポートします。
さらに、顔認識技術を用いて顧客属性を識別し、属性グループごとの入店状況や動線などを分析することも可能です。これにより、主力となる来店客の属性に対して訴求力のあるマーケティングが行えます。
上記のように、AIカメラは家具・インテリア雑貨店において、店舗の課題を見つけ、売り上げ増加につなげる重要な役割を担っています。
家具・インテリア雑貨店で取得する主な顧客分析データとは?
ここでは、家具・インテリア雑貨店において、AIカメラで取得できる主な3つの指標、入店人数、顧客動線、顧客属性について詳しく見ていきます。
①顧客の入店カウント
店舗運営における重要な分析調査の1つが、顧客の入店カウントです。AIカメラには、店舗入口で顧客の出入りを自動でリアルタイムに集計し、数値を基に入店傾向を解析する機能があります。
AIカメラの中でも特にカウント精度に信頼性のあるRetailNext(リテールネクスト)のAuroraセンサーには、家族連れの多い家具販売店の客数をグループ単位で計測できる、グループカウント機能を備えています。
この指標は、日々推移する客数やピーク時の客数、さらには特定のプロモーションが客流にどのように影響を与えたかなど、店舗の足元を理解するための基礎となる情報を提供します。
また、顧客の来店傾向の予測から、スタッフの配置や在庫管理、営業時間の見直し等に活用できます。
例えば、毎週土曜の午後が特に混雑するといった情報があれば、その時間帯にスタッフを増員することで、接客サービスによる購買率の向上や効率的な店舗運営による売り上げ増加が見込めます。また、閑散期とピーク時における客数の差が大きい場合、オフピーク時には在庫管理にあたるなど、労力を省き効率化するための有効な手段となります。
【入店カウントの主な用途まとめ】
プロモーションの効果測定、スタッフ配置の最適化(客数に応じたシフト・スケジュール調整)、店舗運営の効率化、混雑緩和対策、接客パフォーマンスの改善 など
②顧客の動線分析
AIカメラが取得する重要なデータの2つめに、顧客の動線分析があります。これは、店舗内における客の行動パターンを個々の線で追跡し、移動経路を解析していくものです。
例えば、顧客が店舗に入店してから退店するまでの動きや、どのエリアを最も訪れているか、どの商品にどれだけの検討時間を費やしたのか、どの商品に一番最初に関心を示したのか、どの経路でレジに向かったのかなど、様々な情報を収集できます。
動線から得られる情報は、商品の配置やレイアウトの見直しに活用することができます。具体的には、人々が最も多く立ち止まる場所や人流が多いエリアに人気商品を配置したり、あまり通らない場所には目を引く看板を設置して顧客を奥まで誘導する等、回遊を促すレイアウトへの改善や、VMD(ビジュアル・マーチャンダイジング)の効果測定が可能となります。
【動線分析の主な用途まとめ】
商品陳列やレイアウトの最適化、VMDの効果検証など
③来店客属性の分析
AIカメラが取得するデータの3つめは、店舗を訪れる客の属性分析です。
入店する客層(年代・性別)の傾向に加え、特定の商品に対し反応する属性グループ、曜日や時間帯による客層の変化や偏りなども把握することが可能になります。
一般的に、顧客属性に関する情報は買い物客へのアンケートやアプリに登録する顧客情報などから収集することが多いものの、AIカメラを用いることで、来店客全体の属性を取得することが可能となります。
そのため、来店客属性に合わせたキャンペーンなども実施することができるようになり、企画立案の段階でより多くの購買につなげるための重要なヒントを得られるようになります。
【属性分析の主な用途まとめ】
マーケティング戦略立案、属性に応じた商品・サービス企画、広告・販促企画、商品選定やディスプレイの見直しなど
【事例】AIカメラを活用した店舗運営の最適化
AIカメラの活用は、店舗運営のさまざまな局面で効果を発揮します。
ここでは、AIカメラを導入した某国内大手小売チェーン店のケーススタディをご紹介します。
①入店ピーク時予測によるスタッフ配置の最適化
AIカメラの入店ピーク時予測機能によるスタッフ配置の最適化を行いました。
RetailNextのAIカメラには、店舗の混雑状況をリアルタイムに収集し、過去のデータを基に当日や翌日のピーク時を予測し、時間帯ごとの適切なスタッフの数の提案をする機能が備わっています。
この技術により、スタッフの適切な配置や必要な人数の見極めが可能になり、結果として労働力の有効活用が実現しました。結果、人件費の削減やサービスクオリティの向上につながりました。
さらに、年に4、5回開催する特定のキャンペーン時の混雑状況がある程度見込めることができるようになり、必要なスタッフ数や配置を事前に綿密に計画することが可能になりました。
後日、顧客に別途アンケートを取ったところ、待たされることなくサービスを受けられる環境が顧客満足度やリピート率向上にもつながったことが明らかになりました。
店舗経営者にとって、AIカメラのデータ運用は運営強化や顧客維持につなげ、売上を安定させるための大きなメリットとなりました。
②動線分析による店舗のレイアウト改善
AIカメラのデータから顧客の行動パターンを詳細に分析し、計画的に店舗のレイアウトの効果検証を行ったことで、購買率の向上に大きく貢献しました。
今回検証を実施した内容として、顧客の移動範囲を広げるために、よく手に取られる生活雑貨を店舗の奥の方に移動して入口からも目が届くように配置しました。また、滞在時間が長いエリアを中心に、売り出したい新商品のソファーや家具を配置しました。
一方、あまり注目されていない場所には特価商品を配置し客の目を引くことで、今まで通行量や立ち寄る回数が少なかった場所でも、顧客の滞在する時間を増やすことができました。
上記の施策により店内全域のカスタマージャーニーが改善され、顧客の回遊が増えたことで多くの購入を促し、店舗の売上向上につながりました。
結論:AIカメラの導入が家具・インテリア雑貨店にもたらす未来
本稿では、家具・インテリア雑貨店における顧客行動の把握、店舗運営の最適化、属性分析による新たなマーケティングの可能性といったAIカメラを活用した分析のメリットをご紹介しました。
AIカメラで店内の課題を可視化できれば、顧客によりパーソナライズされた訴求力のある商品やサービス提供が可能となり、入店人数や購入の増加につながります。また、店舗運営の効率化により、人件費削減や在庫管理の正確化など、経営面でも大きな利点があります。
AIカメラは、単なるテクノロジーの導入を超え、店舗ビジネス全体を見直し、経営を最大化するきっかけを提供するものです。そういった観点からも、AIカメラの導入は、家具・インテリア雑貨店にとって、避けては通れない選択肢と言えるでしょう。
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