ケーススタディ

小売トレンド:リテールテイメントの新しい手法とAIカメラを用いた効果検証

リテールテイメントは、実店舗におけるリテールとエンターテインメントを融合させた小売業のサービス形態です(詳しくはこちらのケーススタディブログでご紹介しています)。店舗で様々なエンターテインメントを提供し、その体験を通じて顧客との深いつながりを築き、ブランドロイヤルティや認知度を高めることを目的としています。

本稿では、小売店における施策の1つ、リテールテイメントのメリット・デメリットや、AIカメラを用いたリテールテイメントの効果検証方法についてご紹介します。

体験型イベントなどを介して顧客とつながり、ブランディングの確立や集客の促進をしたいとお考えのブランド様や小売店様にお勧めの記事です。

 

小売業のトレンド:リテールテイメントの起源と現状

リテールテイメントは、単に製品やサービスを売るだけでなく、顧客にエンターテイメントを提供し、ブランドの魅力を際立たせるマーケティング手法です。

リテールテイメントの概念は、消費者が購買行動において物質的な満足だけでなく、感情的な満足も求めるようになったことから生まれました。

この言葉を広めたのは、作家のジョージ・リッツァーで、リッツァーは彼の著書『魅惑の世界』: The Seductive World: Revolutionizing the Mean of Consumption(1999年)で、この言葉に言及しながら、 雰囲気、感情、音、活動を利用して顧客に商品に興味を持たせ、購買につなげることの重要性や、私たちが商品やサービスを消費する場所でいかに革命的な変化が起きたかを論じています。

今日、インターネットの発達に伴い、従来のオフラインでの取り組みに加え、オンラインとオフラインをつなぐリテールテインメントも発展し、小売りビジネスのトレンドの1つとなりました。

リテールテイメントは、特に若年層の消費者との間に新たなエンゲージメントのチャンスをもたらす画期的なアプローチ方法と言えます。

現在有望視されているのは、売場面積の一部やブースを活用してリテールテインメントを実施し、店舗計測ツールで顧客の店内行動を捉え、施策の反響を検証し、集客に繋げていく手法です。

例えばAIカメラなどの店舗分析ツールを活用し、人の流れや購買行動を数値化することで、より顧客目線で魅力的な施策を実施し、マーケティング戦略を実現するための知見を得ることが可能になりました。

参考資料:
Retailtainment – Capturing the Customer|RLI
Enchanting a Disenchanted World: Revolutionizing the Means of Consumption|Google Books

 

リテールテイメントが培う顧客体験

顧客体験(カスタマーエクスペリエンス)とは何か?

顧客体験とは、ショッピングだけでなく、顧客が店を訪れた際に体験するすべてのことを指します。

接客スタッフと顧客との間でのコミュニケーション、アパレルショップでの試着、個性的な照明デザインの店舗内装、百貨店やモールで期間限定で展示しているアートギャラリーに加え、店内でのワークショップへの参加、ライブパフォーマンスの観覧などのイベント体験も含まれます。

店内での顧客体験を最適化することで、顧客のファン化や囲い込み、リピーター化が期待できます。

 

リテールテイメントのメリット・デメリットは?

リテールテイメントは、従来の「商品を仕入れて販売する」という小売業の形態にとらわれず、ブランドや商品に付加価値を生み出すビジネスモデルです。

ここでは、リテールテイメントのプラスの側面、マイナスの側面について詳しくみていきます。

メリット1:ブランドの認知拡大

リテールテイメントの参加者が自身の体験をSNS上で共有したり、口コミやレビューを投稿することで、情報が自然に拡散され、ブランドの認知度向上につながります。莫大な広告宣伝費をかけずとも、集客が期待できるビジネスモデルです。

メリット2:購買意欲を刺激できる

商品やサービスを実際に体験することで、ブランドへの好感度が高まるほか、それぞれの商品やサービスの特性や利点に対する顧客自身の理解が深まり、購入を後押しするきっかけになります。

メリット3:LTV(ライフタイムバリュー)の最大化

リテールテイメントを通して顧客との結びつきを強化したり、顧客にパーソナライズされた商品やサービスを提供することができるようになった結果、顧客満足度やLTV(*1)が向上すると考えられています。

さらに、施策実施後の顧客分析から得られた顧客属性、ニーズ、行動パターンは、今後の商品企画、販売戦略やセールスプロモーションなど、よりターゲット顧客に訴求力のある企業戦略の立案に役立ちます。

一方、リテールテイメントには、いくつかのデメリットも存在します。

 

*1 LTVは、ライフタイムバリュー(顧客生涯価値)と呼ばれ、一人の顧客がブランドや店舗にもたらす総収益を指します。

デメリット1:初期投資の負担

リテールテイメントの実施に伴い、初期投資が必要となります。費用は、店舗改装、設備の準備、スタッフの手配など、さまざまな形で発生します。さらに、参加者の安全確保、イベントの運営や顧客データ取得における法的な問題も考慮する必要があります。

デメリット2:継続的な施策展開によるコスト負担

一度リテールテイメント施策に成功しても、顧客の関心を維持し続けるためには施策の見直しやアップデートが必要となります。既存の施策の改善や新たな施策の展開にあたり、継続的に費用が必要となる可能性があります。

デメリット3:顧客への露出効果が期待外れ

リテールテイメント施策による集客は、地域や人口、参加数に左右される可能性があるため、広範囲にわたるブランド露出が叶わず、思うような集客効果が得られないことがあります。

例えば、郊外のショッピングモールの一角を借りてPOP UP(ポップアップ)を開催したとします。そもそもの施設の入店人数やブース前における客の通行量が少なくターゲット顧客にリーチできていないと思われる場合、人流が多く見込める立地やスペースへの移動などの再検討が必要になります。また、集客の成果が見られない場合、ターゲットを絞るための顧客セグメントが誤っていたり、マーケティング施策の内容自体を見直す必要があるかもしれません。

しかし、これらのデメリットを上回るメリットがリテールテイメント施策にはあります。それは、顧客体験の向上や、長期的な顧客との信頼関係の構築です。

実際、多くのブランドがリテールテイメントを導入し、成果を上げています。次の章では、リテールテイメント施策の具体的な成功事例を国外・国内に分けてご紹介します。

 

海外・国内におけるリテールテイメントの成功事例

国内編① アパレル・スポーツ用品ブランド「adidas」のコンセプト型ショップ

2022年1月22日にオープンしたadidas(アディダス)直営店、東急プラザ 表参道原宿の「adidas ブランドセンター原宿」。

“Experiencing Sustainability(サステナブルな体験)”をテーマにした広々とした店内には、リサイクル素材を使用したアイテムが並び、1Fには無料の給水スポット、B1Fには国内初のスニーカークリーニングサービスが設置されています。

2階には、国内のadidas直営店で最大となる43㎡のアウトドアエリアがあり、クライミングやトレイルランニング用のシューズの試し履きや購入ができます。

ブランドのコンセプトそのものを体感できる空間として話題を呼び、顧客間で自然に情報が広がることで集客につなげるマーケティング戦略として成功しています。

参考資料:
国内店舗初、スニーカークリーニングサービス・ウォーターステーション設置 東京の中心にサステナビリティを体感できるストアが誕生 アディダス ブランドセンター 原宿 2022年1月22日 (土) オープン|adidas Japan
サステナビリティを前面に アディダス ブランドセンター 原宿 1/22オープン|mark
「アディダス」のサステナビリティ体験型店舗が原宿に誕生|WWD Japan

国内編② GINZA SIXの屋上に、エシカルなアイススケート場が登場

銀座最大の複合商業施設 GINZA SIX(ギンザシックス)の屋上庭園は、銀座最大の約4,000㎡の広さを誇ります。この屋上庭園に樹脂製のスケートリンク「Rooftop Star Skating Rink」が設置され、2024年1月21日まで開放されました。

スケートリンクは電気を使わず地球環境にやさしく、氷で服が濡れないというメリットもあります。リンク周辺の木々にはクリスマスデコレーションが施され、イルミネーションも同時に楽しむことができました。

この取り組みは、エコ活動により顧客の共感を呼ぶだけではなく、都会の大型商業施設におけるシャワー効果の向上を狙ったものであるとも言えるでしょう。

参考資料:今年もGINZA SIXガーデンにスケートリンクが登場!|TOKYO GINZA OFFICIAL

海外編① ブランドや作品の世界観を謳う、アメリカの某デパートにおけるショールーミング施策

海外のリテールテイメントの取り組み例として、2018年にニューヨークにオープンした米国の某デパートにおけるショールーミング(*2)が挙げられます。

リアル店舗を持たないD2Cブランドやアート作品だけを集め、顧客がそれぞれの世界観を体験できる空間を披露しました。友達や家族にシェアしたくなるような魅力的な仕掛けを施すことで、オンラインチャネルでの自然拡散を狙った取り組みでした。

*2 ショールーミングとは?
ショールーミングとは、店舗で商品を見て、触って、試した(show)後、オンラインで購入する(rooming)という消費者行動を指します。
実際に自分の目で見て触って確かめてからネットで購入したいという消費者行動を逆手にとったマーケティング施策が、ショールーミング施策です。
物流と販売を分離するショールーミングは、リアル店舗に商品を置く必要がないため、余剰在庫の無駄を減らしたりスタッフの人件費を削減できるだけではなく、売り場スぺースを最小限にすることで、テナント賃料を抑えられる画期的な施策と言えます。

海外編② VR技術を活用したバスケットボール体験をNIKE(ナイキ)が提供

世界的に有名なスポーツブランドNIKEは、2021年にVR技術を活用したメタバースプラットフォーム「ロブロックス」に3D空間「NIKELAND」をオープンしました。

NIKELANDでは、ユーザーはNIKEのスニーカーなどを履かせることができる3Dアバターを操作し、メタバース空間内に作られたバスケットコートなどのスポーツ施設で、他のユーザーと競い合うことができます。

VRという新たな分野への進出を果たしたNIKEは、ブランドの世界観を表現し、顧客は商品に関連したゲーム体験を通じて、ブランドへの愛着を深めることができます。

参考資料:ロブロックスにNIKELANDが誕生|NIKE Japan

 

これらの成功事例からもわかるように、リテールテイメントは商品を超えた価値を提供し、顧客の心をつかむ効果的な戦略となり得ます。

次章では、AIカメラを活用し、リアル店舗でのリテールテイメント施策の効果を測定する方法を、企業の成功事例とともにご紹介します。

 

AIカメラによるリテールテイメント施策の効果検証

様々な店舗分析ツールや入店人数計測システムが巷に広がる中、AIカメラは、高精度な顧客データ分析を通じて、実店舗において顧客体験を向上させる新たなツールとして注目を集めています。

AIカメラで取得した顧客の数や店内行動から、リテールテイメント施策のフィードバックが可能です。取得できるデータには、主に人流分析、属性分析、動線分析などがあります。

人流分析:入店カウント

AIカメラは入店人数をリアルタイムにカウントします。日々の客数の変化からイベントやプロモーションが与える影響を分析することができます。

また、複数のAIセンサーを設置することで、店前通行量や入店率平均滞在時間、イベントブースなどの特定のエリア前の通過人数や立ち止まった回数(滞留回数)を計測することも可能です。

RetailNextのAIセンサーで入店人数を計測

【事例】イベントの効果検証と運営パフォーマンスの最適化

生花店がAIカメラを活用し、リテールテイメント施策の効果測定を行った事例です。

イベントを介して顧客とつながる、土日限定のワークショップ「ドライフラワーアレンジメントコース」を開催。

オリジナルのドライフラワー作りやフラワーアーティストとの体験交流の時間を設けることで、パーソナライズされた顧客体験を提供し、集客や顧客ロイヤルティの強化につなげることを目的としました。

AIカメラで取得した実際の入店人数や退店数、体験ブースの利用者数などを各目標数値と比較して施策の成果を判断し、今後同様のイベントを継続するかどうかの判断材料としました。

また、当日や翌日の時間帯別の客数の推移予測をもとに、スタッフの配置を最適化し、接客や在庫調整などの各業務のパフォーマンス向上にもつなげました。

関連ブログ:AIカメラによる入退店人数の計測「店前通行量」と「入店率」の計測場所ごとに来店客の興味関心度を数値化する

 

属性分析:性別と年齢層の取得

AIカメラを活用した属性分析では、来店客の性別(男女)や年齢グループなどを取得できます。顧客属性をもとにセグメントを作成し、ターゲットに最適化されたマーケティング戦略の立案ができます。

AIセンサーで入店客属性(性別)とその割合を取得

【事例】新製品の体験イベントにおける顧客調査

ある家電メーカーでは、レンタルスペースを借りて体験ブースを設置し、新製品である美顔器がターゲット顧客に対して訴求力があるかどうかを、AIカメラを設置し調査しました。

今回の取り組みでは、該当のブースに立ち寄った客数、属性、滞在時間を取得しました。さらに店舗が実施した顧客アンケートや接客中に得られた情報から、ターゲット客が求める商品を企画するためのヒントを得ました。

製品の量産前に課題点を明らかにすることで、コスト削減や商品改善につなげることができました。

関連ブログ:場所ごとに来店客の興味関心度を数値化する来店客の平均滞在時間を調べる

関連ページ:属性分析(性別年代分析)
 

動線分析:キャプチャーレート(各エリアの来店率)の取得

キャプチャーレートとは、来店率・露出率・捕捉率・通過率とも呼ばれ、店舗前やエリア前の歩行者(お客様やスタッフ)が通過する割合のことです。(詳しくはこちら

この指標は、店舗内装や各エリアのポテンシャルを計るために使用されます。また、デジタルサイネージなどの販促物や商品の配置場所の分析にも活用できます。

キャプチャーレートは、RetailNextの(リテールネクスト)のFPA(Full Path Analysis)という機能を使って顧客動線を取得することで算出します。

RetailNext AIセンサーを活用し、店内各エリアの露出率を濃淡や色で可視化したもの

【事例】ライフスタイル・雑貨店におけるレイアウトの効果検証

ライフスタイル・雑貨店で、店内の各エリアのポテンシャルを検証した事例です。

この店では、欧州の生活雑貨やインテリア商品の販売を中心に、実際に店内に展示している商品を使用してセルフサービスでドリンクが飲めるカフェエリアを常設しています。

今回、RetailNextのAIカメラで露出率を算出し、店内全域の人流をカラーチャートで分析しました。その結果、コーヒーミルや全自動エスプレッソマシンが置いてある商品棚、カフェエリア、季節の雑貨エリアの人流が最も集中していることが明らかになりました。

AIカメラのデータをもとに主力エリアを把握できたことで、人気商品や売り出したい商品の陳列場所やレイアウトの見直しを行うことができました。

今後は、購入に至った客・至らなかった客それぞれの移動経路からカスタマージャーニーの分析やVMD(ビジュアルマーチャンダイジング)の効果検証をし、多くの売上を創出するためのヒントを得たいと考えています。

関連ブログ:店内の各エリアのポテンシャルを測る「露出率」とは?本部の施策 - VMD(ビジュアル・マーチャンダイザー)

 

まとめ

リテールテイメントは、実店舗で顧客目線のユニークで新鮮な「リアルな体験」の提供をすることで、顧客体験を向上させ、ブランドと顧客の強固な結びつきを生む効果的な手法です。

顧客に商品やサービスの魅力を直接感じてもらうことで、購入につなげたり、パーソナライズされた体験から、長期的な顧客ロイヤルティを形成することができます。

リテールテイメント施策の効果を最大化させるためには、IT技術やAIを活用した顧客データの分析や運用が重要です。AIカメラを活用した効果検証事例を参考に、自社店舗の顧客獲得・育成へとつなげていきましょう。


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