ケーススタディ

コンビニエンスストアのデータ分析

我々の日常生活に欠かせない存在となっている、便利なコンビニエンスストア。

近年のデジタル化の加速、生産年齢人口の減少、顧客ニーズやワークスタイルの変化などにより、コンビニエンスストアに求められる役割や店舗のあり方も変化しています。

その背後で、売上実績、顧客情報、販売動向などのデータが、消費者のニーズに的確に応えるための重要な要素として、日々収集、分析されています。

コンビニエンスストアの経営において、一体データがどのように活用され、ビジネスの成長に寄与しているのでしょうか。

本記事では、コンビニエンスストアの現状を探り、収集するデータの種類や分析手法をご紹介します。また、コンビニエンスストアにおけるデータ活用事例や、AIカメラを活用した店舗分析についても触れていきます。

それでは、コンビニエンスストアの裏側で行われているデータ分析について探っていきましょう。

 

コンビニエンスストアの現状

2023年において、コンビニエンスストアの既存店売上高は11兆1864億円になり、前年比で4.1%増加したことが、日本フランチャイズチェーン協会から発表されました(日本経済新聞、2024年)。

既存店の売上高は3年連続で前年を上回り過去最高を記録し、来店客数、客単価についても前年を上回る好調な結果が示されています。

既存店の客数は、新型コロナウイルス感染症が終息し、インバウンド(訪日外国人)などの人流の回復があり、都心部や観光地を中心に、2.9%増加しました。また、夏祭りなどのイベントが多く開催されたことも一因のようです。

既存店の客単価の上昇については、前年比1.1%増の723円と、10年連続で前年を上回り、過去最高を更新しました。一部商品の値上げに加え、弁当など高単価商品の売れ行きが好調であったことが影響しました。 

現在、コンビニ業界は大手3社(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)の寡占状態にあり、日本のコンビニエンスストアは、これまでフランチャイズシステムを活用して店舗数を増やすことで成長してきました。

しかし、人口減少が進む日本では、店舗数を増やすだけでは成長は難しいと言われており、環境やマーケットの変化、顧客のライフスタイルの変化やニーズの多様化も相まって、業界全体で新たな事業戦略の展開が必要とされています。

そこで重要視されているのが、データを収集・分析して顧客のニーズを詳細に把握し、適切なマーケティング活動やより良いサービスの提供につなげることです。

次章からは、実際にコンビニエンスストアが膨大な量の顧客データをどのように解析し、事業戦略に活かしているのかを探るため、まずはデータの収集・分析方法から、詳しく見ていきます。

参考記事:

  1. コンビニ売上高、23年は過去最高 人流回復で客数増|日本経済新聞
  2. コンビニのマーケティング戦略とは?大手3社の違いやレシート活用も|IDレシートBIツール

 

コンビニエンスストアのデータ収集方法

データ分析の基本的なステップは、「データ収集」「整理」「分析」そして「解釈」です。コンビニエンスストアで収集されるデータは多岐にわたりますが、主に以下のようなデータを収集し、必要な情報を整理しています。

 

1.POSシステム、ID-POS、IDレシート(購買データや顧客情報の収集)

POSデータから収集される情報には、例えば「いつ」「どの店舗」で「どの商品を」「何個」「いくらで」購入したかが含まれ、売れ筋商品を特定したり、在庫の適正化ができます。

また、ID-POS(顧客情報付きPOS)データは、従来のPOSデータをさらに掘り下げ、当該店舗の「同一顧客」に絞った情報を見ることができます。

さらに、IDレシートでは、ID-POSのような「1店舗のみ」の顧客データといった情報の枠を超え、複数店舗や業態の異なる店舗における同一顧客の購買行動を時系列で追跡することができます。

以下は、日本食糧新聞社がフェリカネットワークス社のIDレシートBIツールを用いて加工した「IDレシートデータから見る大手コンビニエンスストア3社の男女別売上高ランキング」です。IDレシートデータは、約30,000人の消費者から収集した日々の買い物レシートをもとに、フェリカネットワークス社が独自のマスタ(200チェーン、325万商品)を用いて解析した流通横断型の購買データベースです。 

出典:IDレシートデータから見る3大コンビニ男女別売上げランキング 〈惣菜類〉2023年8月

参考記事:

  1. コンビニのマーケティング戦略とは?大手3社の違いやレシート活用も|IDレシートBIツール
  2. IDレシートデータから見る3大コンビニ男女別売上げランキング 〈惣菜類〉2023年8月|日本食糧新聞

 

2.各社ポイントカード(顧客情報の収集)

ポイントカードからは、顧客が利用する店舗やサービス、商品のリピート回数などを収集できます。さらに、カードの種類によっては、顧客の年齢や家族構成、職業といった詳細なデータも収集できます。

 

3. SNS(顧客ニーズやトレンドの収集)

X(旧Twitter)やInstagramといったSNSからも、顧客のニーズや流行の変化を理解するためのデータが集められます。さらに、これらのプラットフォームを通して、企業が自ら情報を発信したりアンケート調査を実施することで、自社の投稿に対する反響や顧客の意見を収集できます。

収集した情報は、セールやキャンペーンなどのプロモーション施策や、新商品に対する需要の見極め、売上予測などに活用できます。

 

4. その他の収集方法

購入した商品のレビューや口コミなどのフィードバックを顧客が一般共有できるプラットフォームを立ち上げる、顧客情報を取得できる自社アプリを導入する、スタッフが会話の流れで直接顧客から情報を得る、AIカメラを導入して店舗を訪れる顧客の属性やキャンペーン広告への反応を計測する、等が挙げられます。 

このような方法でデータを取得することにより、属性によるセグメンテーションや、購買傾向、リピート回数等に応じた施策など、顧客視点で最新のニーズをいち早くキャッチしてマーケティング戦略に活かすことができます。

 

コンビニエンスストアのデータ分析方法

次に、コンビニエンスストアにおけるデータの分析手法について見ていきます。データを収集した後は、以下のような方法で分析することが可能です。

 

1. 3C分析

重要業績評価指標(KPI)を定義し、顧客(Customer)、競争相手(Competitor)、自社(Company)の3つの視点からデータを分析する手法です。コンビニエンスストアの場合、顧客の購買傾向、競合他社の動向、自店舗の売上パフォーマンスなどを分析し、戦略の見直しや改善策の検討に生かすことができます。

 

2. ABC分析

ABC分析は、収集したデータをA、B、Cの3つに分類して分析する方法で、各商品・サービスの売上や収益を分析する際によく使われます。

例えば、商品を売上高の高い順に並べ、総売上の50%を占める商品もしくはカテゴリをA、次の35%をB、残り15%をCとすることで、重点管理すべき商品やカテゴリを特定します。

A、B、Cの各売上高や利益、在庫回転率や購買率などの情報を基にして、適切な在庫管理や商品展開を行うことができます。

さらに踏み込んだ分析では、例えば特定の時間帯にAの商品がよく売れるという傾向が見つかった場合、その時間帯にAを積極的に入り口付近や目立つところに陳列することで売上向上を図ることができます。

 

3. ビッグデータ分析

ビッグデータ分析とは、人々の行動や嗜好、天候、時間帯など様々なデータを組み合わせて分析し、より深い洞察を得るための手法です。AIなどの最新技術とも密接な関係があり、クロス集計や回帰分析、クラスタ分析など、ビッグデータ分析の手法は多岐にわたります。

大量かつ多種多様なデータセットを活用することで、顧客のニーズをより精密に把握し、個々の顧客にパーソナライズされたマーケティングを行ったり、サービスを提供することが可能になります。

参考記事:ビッグデータ分析とは?分析手法から活用ポイントまで詳しく解説|NEC

 

4. AI・機械学習を用いた予測分析

大量のデータからパターンやトレンドを抽出し、未来の売上や需要を予測するのが予測分析です。AIや機械学習を活用することで、人間が見落とす可能性のある複雑なパターンも把握でき、より高度な予測が可能となります。

例えば、AIカメラなどの店舗計測ツールを店頭に導入することで、蓄積した客数データを元に未来の入店人数の予測を行うことができます。さらに、各曜日や時間帯ごとの来店客の属性や購買傾向を予測できれば、ターゲットに合わせた商品陳列やレイアウト、商品の在庫量などを決定することが可能です。

この他にも様々な分析があります。目的に応じて適切な分析方法を選択することで、効率的な店舗運営に役立てることができます。

 

コンビニエンスストアにおけるデータ活用事例

コンビニ業界では、人口の減少や顧客ニーズの多様化に対応する戦略が必要とされており、消費者の嗜好などを詳細に調査することで、新たな事業展開を試みています。

データの活用事例は多岐にわたりますが、ここでは国内大手コンビニ3社、セブン&アイ・ホールディングス(セブン-イレブン)、ファミリーマート、ローソンにおけるデータ活用例を一部ご紹介します。

 

事例1. セブン&アイ・ホールディングス(セブン-イレブン)

セブン&アイ・ホールディングスは、セブン-イレブン・ジャパンをはじめ、複数の業態が共有する会員ID「7iD」のデータを活用しています。 

セブン&アイ・ホールディングスはグループの強みを生かし、国内に約2万2700のグループ店舗を展開しています。来店客数は1日あたり約2,220万人(国内)で、グループにはセブン-イレブン、イトーヨーカドー、アカチャンホンポ(専門店)、ロフト(食品スーパー)、セブン&アイ・フードシステムズ(デニーズ)など様々な事業会社があります。 

7iDはグループシナジーの最大化を目的に2018年にスタートしたもので、単独では得られなかった他の事業会社の顧客属性や購買行動データを活用することで、さまざまな戦略を立てられるようになりました。さらに、7iDのID-POSデータが加わることで、「人」を軸に属性や購買行動を捉えることが可能になりました。

2022年7月時点の7iD会員数は約2500万人で、中期経営計画では、2025年度末までに会員数を5000万人にする目標を掲げています。

参考記事:グループシナジーの最大化で挑む――セブン&アイが進める『7iD』データ戦略|日本ビジネスプレスグループ

 

事例2. ファミリーマート

ファミリーマートでは、「無人決済店舗」「デジタルサイネージ」「Famiペイ」など、最新のデジタル技術を店舗網や顧客接点に最大限に活用することで、次世代のコンビニエンスストアモデルを実現し、変化の激しい現代においても持続的な成長を遂げています。

また、人型AIアシスタントや遠隔操作ロボットなどを取り入れることで、店舗オペレーションの省力化を図り、顧客の利便性・満足度を高め、企業価値の向上を目指しています。

リアルとデジタルの垣根を越えたサービスの提供を目指し、2021年9月、ファミリーマート、伊藤忠商事株式会社、株式会社NTTドコモ、株式会社サイバーエージェントが新会社「株式会社データ・ワン」を設立し、小売店の購買データを活用したデジタル広告配信事業を開始しました。

データ・ワンでは、「ファミペイ」など日々の店舗運営から得られる購買データをもとに約3,100万件の広告IDを活用し、顧客の興味に合った広告を配信することで、サービスの向上だけでなく、各メーカーへの効率的なマーケティング・ブランディング手法も提供しています。

リアル店舗の顧客基盤を活用した新たな広告ビジネスを構築することで、より有益な情報を届け、顧客の利便性を向上し、企業のさらなる発展を目指しています。

参考記事:デジタル推進による利便性の向上|ファミリーマート

 

事例3. ローソン

国内で約1万5000店舗のコンビニエンスストアを展開するローソンは、24時間365日収集した膨大なデータを掛け合わせた分析で、顧客理解を深めるとともにパーソナライズされた顧客体験の実現を目指しています。

ローソンのビッグデータは大きく分けて、「Pontaカード」や「dポイントカード」、「LAWSON ID」から収集した顧客の属性データ、店舗のロケーションに関する店舗データ、商品データの3つがあります。

ローソンはこれらのデータを掛け合わせ、マーケティング施策の推進、店舗開発、店舗運営指導、物流の最適化などを行うため、膨大なデータの管理と高度な分析を可能にする新たなデータ統合基盤の構築を進めています。

参考記事:顧客体験価値向上へ!全社データ分析高度化に挑むローソンの新データ統合基盤|IT Leaders


これらの事例からもわかるように、コンビニ業界ではデータ分析の実践により、顧客サービスの向上や新たな事業展開を目指しています。

 

AIカメラを用いたコンビニエンスストアのデータ活用術

AI技術の進化により、コンビニエンスストアのデータ分析手法にも新たな風が吹いています。その一つが、「AIカメラを用いたデータ分析」です。

AIカメラをコンビニエンスストアの入り口付近に設置することで、入店人数や店前通行量をリアルタイムに計測できます。入店する客数の推移や入店率などを調べることで、店舗の経営状態やキャンペーン実施時の集客施策の効果などを確認できます。

AIカメラを設置することで、人数計測以外にも幅広くデータ運用が可能になります。

例えば店内のサイネージへの顧客の反応を視聴回数や視聴時間といった項目で取得できます。広告効果測定と商品販売調査を組み合わせることで、より効果的な販促物を作成することが可能になります。

さらに、AIカメラでコンビニエンスストアを訪れる客の属性データを取得することで、自社のターゲット像を把握し、購買意欲を高める商品戦略やプロモーションを計画することもできます。

弊社が提供している店舗計測ツールのレンタルサービス「coumera(クーメラ)」で、これらを実現したい企業様は以下をご覧ください。

 

終わりに:コンビニエンスストアのデータ分析と今後の期待

日々変化する消費者ニーズを捉えるには、データ分析が欠かせません。

国内の小売り各社は、従来のような店舗の立地条件やサービス戦略に依存するだけでなく、顧客データから消費者の実態を精緻に把握し、さらなる成長を目指す必要があります。

AI技術の発展やビッグデータの普及により、コンビニエンスストアをはじめ、リアル店舗におけるデータ活用の重要性は、益々高まっていくでしょう。

データインサイトを利用し、新たな事業展開や、顧客サービスの立案・戦略実行につなげていきましょう。


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