ケーススタディ

【RetailNext共同記事】複合商業施設をショッピングモールの未来形態として考える

本記事は、米国RetailNext社と共同で執筆した記事です。株式会社GRoooVEは、日本を代表するRetailNextのソリューションパートナーです。RetailNextのインストール実績数は日本国内800店舗以上、海外5店舗以上となり、RetailNextのトップパートナーとして、現在も導入数は増え続けています。


米国において、ショッピングモールの業績は、世間の予想をはるかに上回る好調な動きを見せています。

2023年におけるアメリカのショッピングモールの空室率はわずか5.6%にとどまり、前年対比の賃料は上昇が続いています。モールから撤退する店舗(テナント)もあるものの、その多くは時流に沿ったビジネス展開ができていないことが要因として挙げられています。しかし、モール内で閉店が相次いだとしても、事業拡大や知名度アップに売り場を確保したい企業間での競争が常に繰り広げられているため、テナントスペースは新規メーカーやブランドですぐに埋まってしまいます。

このように好調な動きを見せるショッピングモール経営ですが、他のビジネス同様、変化に富んだこの時代に、消費者行動の変化やトレンドの波から逃れられるわけではありません。

本日は、リアル店舗ビジネスの生き残り戦略としても期待される、ショッピングモールの未来形として期待される「複合商業施設」について考察していきます。

 

複合商業施設とは?

複合商業施設(ふくごうしょうぎょうしせつ)とは、小売店や飲食店、娯楽施設など、複数の商業施設を併設した大規模な施設のことを指します。消費者の多種多様なニーズに応えることで、集客力を高める効果が期待されています。

昨今の複合商業施設は、エンターテイメント、利便性、コミュニティ感覚をショッピング体験に求める消費者の変化する要求に応えるような、より総合的で没入感のある体験を提供しています。

ショッピングモールがモダンで斬新なものに生まれ変わることで、テナントの誘致も促進され、館内に客数が増えれば、人気店(アンカーテナント)の維持やさらなる獲得にもつながります。

複合商業施設は、このような理由から不動産開発において、最も急成長している分野の一つであるとも言われています。Urban Land Institute(アーバン・ランド・インスティテュート)によると、「複合施設開発」(多目的開発)とは、以下のようなものであると考えられています。

  1. 小売、エンターテインメント、オフィス、住宅、ホテル、レクリエーションなど、3つ以上の重要な収益を生み出す用途を提供すること
  2. 土地利用の統合、密度、互換性を促進すること
  3. 歩行者が途切れることなくつながり、歩きやすいコミュニティを形成すること

小売業者の間では、こうした開発は店内の滞留時間を増やし、人々の往来を長時間維持するため、より多くの集客機会を提供できるとして、人気が高まっています。また、小売店舗だけでなく、モール自体を大きく変革させるチャンスでもあり得ます。今後、複合商業施設開発は世界的に成長し続けるでしょう。

  1. 関連記事:商業施設の重要な取り組みである「シャワー効果の向上」

参考資料:Weblio|実用日本語表現辞典|複合商業施設

 

補足資料1:マレーシアの首都にある複合商業施設「Berjaya Times Square(ベルジャヤ タイムズ スクエア)」

「Berjaya Times Square(ベルジャヤ タイムズ スクエア)」は、マレーシアの首都クアラルンプールに立地する超大型商業施設です。

上層階はアパートメントホテルやコンドミニアム、下層階は多くの小売店や地元メーカーがテナントとして様々な商品やサービスを提供するショッピングモールとなっています。

ホテル内には、スイミングプール、サウナ、フィットネスセンター、スカッシュコートなどが完備されており、ショッピングモール部分の5~8階部分にはなんと、マレーシア最大の屋内遊園地があります。

筆者もショッピングモールには何度か訪れたことがありますが、地元と思われる子供連れの家族やカップルで賑わっていました。施設は最寄りのモノレール駅(インビ駅)とも連結されており、ここに来れば必要なものが何でも揃うため、利便性は抜群でした。

人気のアトラクションを備えた室内遊園地(出典:https://www.tiqets.com/ja/berjaya-times-square-theme-park-tickets-l175747/)

Berjaya Times Square施設外観(出典:https://www.booking.com/hotel/my/berjaya-times-square-hotel-kuala-lumpur.ja.html)

参考資料:

  1. 旅行のクチコミと比較サイト フォートラベル|ベルジャヤ タイムズ スクウェア 
  2. Berjaya Times Square Management Corporation(公式サイト)

 

リテールテイメント=「体験型店舗」へのトレンド移行がショッピングモールのあり方を変える

店舗(テナント)施策と同様に、ショッピングモール全体においても、より顧客志向な体験型のビジネスモデルへと移行しつつあります。

小売とエンターテイメントを融合させることで、ショッピングモールは時代に合った存在であり続けることができます。 このような再編成は、徐々にではあるものの、未来の店舗ビジネスにおいて重要な移行プロセスであると言えるでしょう。

  1. 関連記事:ビジネスモデル「リテールテイメント」とは?小売トレンド:リテールテイメントの新しい手法とAIカメラを用いた効果検証

 

労働人口の生活環境の変化がもたらした複合型(多目的)店舗革命

インターネットの普及、都市化、シェアリングエコノミー、コロナパンデミック(世界的大流行)、労働力不足等、市場や生活環境の大きな変化は、リアル店舗を構えるブランドに対して、これまで以上に革新的である必要性を示してきました。メーカーや小売業者も、店舗ビジネスを維持するために、変化に柔軟に対応していくことが求められています。

現在、世界各国で、新しい店舗形態の導入が積極的に行われています。昨今の店舗ビジネスにおける注目すべき変化のひとつに、「複合型(多目的)」店舗革命と呼ばれるものがあります。

小売業者は、多忙な社会人の居場所であるオフィスビルの商業施設化というビジネスの新形態に目をつけました。

実は、コワーキングスペースの増加が、これを始動させたと考えられています。リモートワークへの移行が進み、働く場所(オフィス)と生活する場所(自宅)の垣根がますます曖昧になってきた今、小売店をこのような社会人のライフスタイルに加えることは、理にかなっています。

 

補足資料2:海外のオフィストレンド事情

施設内に複数の企業が入ったレンタルオフィスビルや中・大規模のオフィスビル等では、食堂・カフェ・コンビニ・プール・ジムなどが併設されていることがしばしば見られます。実際、北欧フィンランドのような寒冷地では、都市部だけでなく地方でもサウナやバーがオフィスビルに併設されていることがあります。

フィンランドで出会ったある社会人は、「サウナやプールが仕事の息抜きになるし、上司や従業員同士が自然に交流できる良いレクリエーションだ」と言っていました。サウナのなかで心を通わせ、商談が行われることもあるようです。

市が主導し建設されたフィンランド ヘルシンキにあるサウナ「Sauna Löyly」(出典:https://www.essentialhome.eu/inspirations/contract/restaurants/sauna-loyly-helsinki/)

 

複合商業施設開発の促進に小売業が期待すること

ICSCによる2022 State of The Industry Report(2022年業界の現状報告)では、注目すべきビジネスの新規開拓における主要トレンドの1つとして、複合商業施設開発を挙げています。その理由を、ICSCは次のように述べています。

「コロナパンデミックに端を発した住民の居住地の移転に続き、都市中心部以外の地域における都市化が進んでいくと思われます。それに呼応して、都心部の中心では、不動産を再利用するために区画規制を見直す姿勢を強化していくでしょう。」

1階から数階にかけては、小売店、ホテルなどのサービス施設、その上の階層は家族向け住居を配置するという複合(多目的)用途のスペース利用は、今や新規開発物件の標準になりつつあります。

Green Street Advisors(グリーン・ストリート・アドバイザーズ社)によると、新規開発を成功させるには、小売の“組み合わせ”を最適に配置することが極めて重要だということです。興味深いことに、運営に成功している複合施設の賃料や資産(不動産)価値は、最大25%も上昇すると予想されています。

商業施設の賃料の高騰はブランドや小売業者にとっては容認しがたいものかもしれませんが、よく計画され顧客に最適化された施設は、従来のモールや繁華街に位置する路面店よりも、1平方フィート当たりの投資収益率が高く見込めるという点に着目すべきです。複合商業施設への多様な顧客層のアクセス、活気ある雰囲気、異業種間の提携促進は、小売業者を誘致する魅力的なファクターとなるでしょう。

 

2018年、イギリス企業「Westfield」(ウェストフィールド社)は「Destination 2028」構想を発表し、社会的交流とユニークなコミュニティの形成によって推進される「ハイパーコネクテッド・マイクロシティ」を創設する計画を発表しました。これには、庭園、レンタル小売スペースのほか、顧客が見て学べる「教室型小売店」などが含まれる予定です。

当時、Westfield(ウェストフィールド社)のCMOであったMyf Bagnold(マイフ・バニョルド)氏は、このプロジェクトについて次のように述べています。

…we’re already looking forward to the next decade. We’ll continue to work closely with brands to deliver innovative retail spaces that create the ideal environment for them and our visitors – including developing technologies that converge digital and physical shopping to enhance that Extra-perience in state-of-the-art surroundings.

– 私たちはすでに次の10年を楽しみにしています。私たちはブランドと密接に協力し、ブランドと来店客双方にとって理想的な環境を作り出す革新的な小売スペースを提供し続けます。これには、最高水準の環境における「特別な体験」の顧客への提供を強化するために、デジタルとリアルにおける買い物体験を融合するようなテクノロジーの開発も含まれます。

新たなテクノロジーが次々と登場し、より身近なものとなり顧客の目が肥えるにつれ、こうした新しい分野の開拓に乗り出すモールのオーナーや運営者は今後ますます増えていくでしょう。

  1. 関連記事(RetailNext共同執筆):AIセンサーなどの最新テクノロジーが小売ビジネスを強化する10のポイント

 

複合商業施設開発におけるコミュニティ形成の重要性

Centennial Real Estate(センテニアル・リアル・エステート)の事業開発・収益担当、EVP(エグゼクティブ・バイス・プレジデント)であるBil Ingraham(ビル・イングレアム)氏は、2023年に開催されたRetailNextエグゼクティブフォーラムのパネルディスカッションにおいて、ショッピングモールを含む商業施設は、再開発において地域コミュニティを第一に考える必要があると強調しました。

「開発を行った後に地元の人々の意見を求めるのではなく、特定の地域(エリア)に何が不足しているかを考え、それを中心に再開発を計画するのです。例えば、私たちは閉鎖的な商業施設を『歩きやすいアーバンビレッジ(都市村)』、つまり緑地や居住空間のニーズを満たす多目的キャンパスに変えていく取り組みを行っています。こうすることで、消費者ニーズ・地域社会のニーズを共に満たすと同時に、小売テナントにより多くの顧客を呼び込むことができるのです。」

これらの新しい設計の中心にあるのは、中心地をより地域に根ざしたものにしたいという願いです。つまり近隣の地域性を意図的に反映させた開発です。新たな補完的役割を持つ用途を開発に組み込むことで、一部の用地の商業的な持続可能性を向上させるだけでなく、地域住民や働く人々の利便性も高めることができます。

複合商業施設への投資は、その地域のコミュニティの参加を促すダイナミックなハブを生み出すことで、都市部を活性化させることが可能です。このような開発は、多くの場合、地域住民や来訪者が集う場所として機能し、社会的な交流を促進し、地域全体の福祉に貢献することにつながっていきます。

顧客体験に特化したエージェンシーSLD(シカタニ・ラクロワ社)は、このようなより社交的なつながりを重視した商業形態で成功する小売店は、コミュニティの形成に貢献する店舗であると指摘しています。

例えば、小さな食料品店であれば、着席型の飲食コーナーや朝食のテイクアウト、カフェなどと統合することが できます。ジムやヨガスタジオは、衣料品、スポーツ用品や健康器具販売店、栄養指導の提供、 地元のランニングコミュニティの紹介などで、ビジネスを拡大させることができます。

このように、複合商業施設の開発において、店舗が消費者に提供する付加価値を考える場合、人々が互いに交流することを促したり、自然に相互連携するサービスの提供が理想的です。

  1. 関連記事:地図と顧客データから読み解く百貨店の店舗分析

 

補足資料3:唯一無二のラグジュアリーモール「GINZA SIX」(ギンザ シックス)が目指すビジョンとは?

GINZA SIX(ギンザ シックス)は、東京都中央区銀座にある銀座エリア最大の複合商業施設です。J.フロントグループ店舗でもあった旧松坂屋銀座店の跡地を含む再開発事業により、2017年4月に誕生しました。

銀座の一等地に位置し、ハイブランドを中心とした商業施設、ビジネス用途施設(オフィス)、能楽堂などの文化・公共施設などで構成されています。

GINZA SIXは、2022年の売上高が開業以来過去最高を記録したと発表しています。

2019年以降はコロナ感染拡大に伴う入国規制がインバウンドの減少をもたらし、売上に大きく影響したものの、2021年10月の入国規制解除後は訪日外国人数が過去最多を記録し、2021年12月には全館売上高がコロナ前の売上高を上回りました。

GINZA SIXの2022年の好調な売上回復は、国内客の売上高が2019年比で45%も増加したことも特徴的でした。特に20〜40代の若年層男性の高額品への消費が活発で、ラグジュアリーブランドが売上をけん引しました。

2022年3月にGINZA SIXリテールマネジメントの代表取締役社長に就任した近藤保彦氏は、インタビューの中で、今改めて問われるようになった「リアルの重要性」について語られています。

コロナをきっかけにリアルの価値が見直され、ブランドはその世界観を演出するために一定の売り場面積を求めています。実際、テナントはほぼ満室が続いており、国際的なラグジュアリーブランドの出店先としてもGINZA SIXが選ばれているそうです。

GINZA SIXは「百貨店ではない施設に振り切った戦略」のもと、唯一無二の独自性と世界水準のクオリティを目指し、今後も銀座という立地の強みを活かしながら、ラグジュアリーモールとして発展し続け、最終的には銀座のまちづくりに貢献したい、と目標を掲げています。

地域に開かれた銀座最大の屋上庭園。約4,000㎡の面積を誇る(出典:https://ginza6.tokyo/facilities)

能楽の最大流派である「観世流」の能楽堂(出典:https://ginza6.tokyo/facilities)

参考資料:

  1. ギンザ シックス売上高が過去最高 22年、高級ブランドけん引|WWD JAPAN
  2. 「GINZA SIX」開業5周年 コロナを経て見えた唯一無二のラグジュアリーモール戦略の現在地|FASHIONSNAP

 

補足資料4:複合商業施設へのシフトが投資機会を増やす

投資家にとって、安定した収入源を確保できる複合商業施設は、魅力的な投資対象と言えます。

こうした施設は複数の収入源を提供するため、市場の変化に強く、耐久性があります。例えば、小売市場が低迷した場合には、複合施設のオフィスや住宅部分が代わりとなって利益を持つことが期待できます。

こうした適応力により、複合商業施設は従来の単一用途のショッピングモールよりも有望な投資先となっています。

 

まとめ

職場、生活、エンターテインメント(娯楽)がより密接に関連し合うようになるにつれ、リアル店舗はますます関連性の高い、最適化された顧客体験を提供する必要性が増してきています。

十分に戦略化され実行された顧客体験の提供は、長期的にブランドやメーカーがロイヤリティを築き、ファンを増やし、店舗の売上を押し上げるの役立つでしょう。

2024年以降も、複合型商業施設のような多目的・多面的な事業展開の推進は、今日の消費者のニーズや嗜好に即したアプローチにより、モールのオーナー、運営者、テナントにとって持続可能で健全なビジネスチャンスを生み出すことが期待されます。

さらに、小売業者が継続的に収益性を高めるためには、データ主導の意思決定も重要です。リアル店舗運営におけるデータ取得に欠かせない、RetailNextのテクノロジーを最大限に搭載したAIセンサー「Aurora(オーロラ)」の導入にご興味のある企業様は、ぜひGROOOVEまでお問い合わせください。

  1. 関連記事(RetailNext共同執筆):今日の小売業界におけるデータ収益化とは?

 

RetailNextのソリューションパートナー、GROOOVE

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RetailNext AIセンサー Aurora 導入実績 国内No.1」のGROOOVEは、ネットビジネス全盛の現代において、オフライン店舗の人の動きをデジタル化し、簡単・迅速にデータ活用できる環境を構築しています。また、AIセンサー導入後のデータ分析・運用をサポートするコンサルティングも行っています。

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